音楽療法ではこんなことをします 


音楽療法の様子を、具体的にご紹介しましょう

対象者の年齢により、「高齢」「成人」「児童」の3つの現場の例を見ていきます

現場での音楽療法を「セッション」、
メインの音楽療法士を「セラピスト」と呼んでいます


 高齢者の方の場合  成人の方の場合  児童の方の場合

 高齢者の方の場合
楽器と歌詞の書かれた大きな紙が用意されました。
「音楽クラブが始まります」の放送で 自由に利用者さんが集まってきて、食堂の一角にコの字型に並べられた椅子に、男性5人女性16人(65〜93歳)が座りました。

「さっきの雨はすごかったので、私は思わず引き返そうかと思いました。」初めから場をなごませるセラピスト。
「それは困る。」と即座に返す利用者さん。
この時間を楽しみにしていることが伝わってきます。
60分のセッションは次のような流れで行われました。
@ 始まり  「いつもの始まりの歌です」

「♪隣組」の替え歌を、ゆっくりとしたテンポで全員が手拍子をしながら歌います。
ねらい

@「始まりの歌」はこれから始まるという意識を持っていただくことが目的です。
A 挨拶 楽器  「順番にお一人ずつ回りますね」

お一人にバチを渡し、ドラム(キッズジャンベ)を差し出します。
セラピストが「♪二人は若い」のメロディーで、 「○○さんと呼べば」
と歌いかけ、マイクを向けると、ドラムを叩きながら
 「ハーイとこたえる。 今日も楽しく歌いましょう。」
と大きな声で歌われます。
A挨拶は、活動中唯一、ひとりひとりと関われるので大切にしています。ここで個人の様子の把握(アセスメント)もしています。
B 見当識  「明日9月1日は何の日でしょう?」

「台風がよく来る日」「関東大震災の日」「防災の日」という答えが返ってきました。
東京で地震にあったという女性が「大変やったよ。」と話して下さいました。

新聞のススキの写真をお見せし、
「暑い毎日ですが、 季節はちゃんとやってきますね。」
B見当職は新聞記事の写真などを持参して、時事問題的に話題を提供します。
C 身体  「夏を惜しんで、水遊びしましょう」

「♪みずてっぽう」の歌に合わせて、水を吹き出すように胸元のグーから、勢い良く前でパーを作る動作を繰り返します。
「次は腕を伸ばす方向を変えます。右手と左手を違う方向にして下さいね。」
どの方向でも良いが左右が揃ってはいけないというのは難しいようです。
「次はどうしようかなって迷うでしょう。そうやって脳を使うことが、とてもいいんですよ。」
説明を受けて、皆さんはますます集中していました。
C身体活動は、眠たい午後の時間なので覚醒と身体の活性化が目的です。
D 今月の歌・楽器 「今日もムウムウ、着て下さいますか?」

93歳のAさんは即座にうなずきます。
Aさんとセラピストが手作りムウムウを着る間、皆さんにはマラカス、タンバリン、鈴、ギロ、ウッドブロックが配られます。
全員の首にかけられたレイ、ウクレレの音。

ハワイアンムードいっぱいの「♪憧れのハワイ航路」を歌いました。
D「今月の歌」は、不得意な人でも一緒に歌えることを目標にしたものです。
E 来月の歌  「来月、毎週歌う曲は、旅の夜風です」

「愛染かつらという映画で、津村浩三と高石かつ枝が出てきます。」
霧島昇のオリジナルCDを聞きながら、いつももの静かな男性がマイクを握って熱唱します。
別の男性が「高石かつ枝は歌手で子供があったんですよ。 愛染かつらというのは…」と話し始めました。
E翌月の歌の予告をし、次週への誘いかけを行います。
F 歌唱・鑑賞・楽器

CDの「♪長崎の鐘」を聞いてみました。
「長崎ではなく、ここの鐘を鳴らしてみましょう」

ハンドベルを配り、まずは鳴らす練習。
アシスタントのうちわに合わせてきれいにベルが揃います。
FCDを鑑賞し回想を促します。
G 終曲

「来月は皆さんのお好きな『♪旅の夜風』を歌いますので、皆さん参加して下さいね。ありがとうございました。」
一斉に拍手が起こります。

「♪星影のワルツ」を聞きながら、皆さんはお部屋に戻っていきました。
G終曲は時間の関係で、本日は解散のBGMとして使いました。
すべてを片付けてから、セラピスト・アシスタント・職員の3人で、反省や次回の課題についてミーティングをします。
軽費老人ホーム、大口一期一会荘(愛知県)では、毎週「音楽クラブ」という名称で音楽療法が行われています。
セラピスト:英(はなぶさ)通代さん、アシスタント:寺澤貞子さん、施設職員:小幡五月さんのセッションを見せていただきました。ご協力ありがとうございました。
(2007年8月31日取材)
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 成人の方の場合
18歳から50歳代の知的障がい者7名(男性4、女性3)の作業所の利用者さんと、職員3名・ボランティア1名・保護者1名が参加されたセッションです。
「今日は何日ですか?」「明日から3連休や!」セラピストの話によく耳を傾け、にぎやかな返事が返ってきます。 前回を思い出したり、お休みされている人を気遣った会話から始まりました。
@ 挨拶 パドルドラム「♪こんにちは○○さん」

お一人ずつ順にバチを渡し、太鼓を叩いてもらいながら名前を入れた歌を歌います。

ねらい


@挨拶では、始まりを意識して頂き、今日の参加者の様子をつかみます。
A 発声・歌唱 「♪きらきら星」「♪ドラえもん」

 誰でも知っているきらきら星のメロディーに乗せて膝打ちと手拍子を交互にしながら、時折「♪あ〜」や「♪あいうえお〜」とリラックスしながら大きな声を出すように促します。 この発声をした後、Aさんの大好きなドラえもん「♪こんなこといいな、できたらいいな…」と歌うのがいつものパターンです。この曲があることでAさんが落ち着きます。 早く前に立って歌いたい人、自分の席で座ったままでも声が出せる人など様々ですが、7人全員の歌い声が聞こえました。
Aでは声を出して緊張をほぐし、動作を付けてリラックスしながら発声を促します。 ♪ドラえもんの歌唱は前任者の時から継続した活動で、それぞれがスポットライトを浴びることで自信が持てます。
B リクエスト・歌唱 「♪こいのぼり」「♪背くらべ」

前回リクエストされた曲を歌います。こいのぼりの絵を張り、かしわ餅・ちまきの作り物を見ていただくと、それぞれの思い出話も出てきて、どんどん会話が弾みます。 自分から話すことの少ない人も、会話の中で声かけされると、頷きながら楽しそうにしています。 3拍子のリズムを手拍子しながら歌います。手拍子が苦手な人は鈴を持って参加しました。
B♪こいのぼりや♪背くらべの歌唱では、小道具を使って視覚的に季節感を味わいます。
C 身体活動 「♪ジェンカ」

皆さん立ち上がり、キーボードの曲に合わせて足踏みをします。途中で曲が止まったら「ポーズ!」の合図で好きなポーズを取ります。 どんなポーズをしようかと迷い、思わず飛び出す格好に、自然に大きな笑い声が出てきます。 「次は職員さんのポーズを真似して下さいね」 シュワッチュ!シェー!など、「えーそんなポーズ?」と言いながらも、うまく真似をして止まります。 次は参加し始めたばかりの18歳の女性が前に出ることになりました。にっこりした顔でいろいろなポーズを取ります。 仲間が自分の真似をしたり、「かっこいい!」と言葉をもらったりすると、ますますにっこり。
C身体活動では、眠気を覚まし、音楽の力を利用して自然に身体を動かします。他の人との関わりを持てるように工夫をしています。
D 歌唱・楽器 太鼓と鈴「♪ああ人生に涙あり」

「先月も楽しんだ水戸黄門やりましょうね」 太鼓や鈴を配る役の人、回収する役の人、歌詞を張る役の人がお手伝いしてくれました。 太鼓を叩くところ、鈴を鳴らすところ、両方同時に鳴らすところを決めて練習します。職員さんが見本を見せ、鳴らすところの指示を出して、協力して下さいます。 楽器を鳴らしながら歌っていき、最後に乱打をして、ピタッと止まることに成功すると、皆さんとても満足そうです。
Dの楽器を鳴らしながらの歌唱は、打楽器で発散をします。
E 終曲 ツリーチャイム「♪さようなら」

「帰りの時間になったので、終わりの歌を歌いましょうね」 一人ずつの前にツリーチャイムを置いて、名前を入れた歌をうたいながら、順に鳴らしてもらいます。 それぞれがいろんな鳴らし方でツリーチャイムに触ります。 1年前はほとんど笑顔がなかった人が、この日最後まで優しい笑顔を見せ、セラピストをびっくりさせていました。
Eツリーチャイムを使っての終曲では、終わりを確認していきます。
 岐阜県土岐市の特定非営利活動法人「土岐やまびこ作業所」は昭和58年に開所され、職員の送り迎えで10人程の利用者が、ろうそくの箱詰めやダンボール作業のために通います。 音楽療法は岐阜県福祉事業団の支援事業として、月1回1年間の支援を受けられたことを始まりとして定着しました。
 岐阜県音楽療法士協会の会員でもあるセラピストの西尾由美子さんの50分のセッションを見せていただきました。ご協力、ありがとうございました。
(2008年5月16日取材)
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 児童の方の場合
障害児自主グループ「ピンポンパン」は、音楽療法をグループで利用することを目的として、5年前にお母様方によって作られました。
月2回、社会福祉協議会の一室を借り、45分のセッションが3グループ行われます。
ご紹介するのはしんちゃん(年長)、ひろし君(年長)、まさお君(年中)(全て仮名)のセッションです。

3人の子ども達が入ってきました。
まさお君は、今日が初めての参加です。 気をつけをして「始めます。こんにちは。座ります。」のご挨拶をして始まりました。
@ 始まりの歌 タンバリン「♪こんにちは」

「お口も歌ってね。」
しんちゃんはタンバリンを叩きながら「♪こんにちは、せんせい…。今日もよろしくね。」と口をはっきり動かして歌います。

A 歌唱 「♪ゆき」「♪焼いもじゃんけん」

「♪ゆきやこんこ…」と歌った後、「じゃあこの歌は?♪焼いも焼いも、おなかがグー…。じゃんけんぽい。」両手のこぶしをグルグルしたり、タイミングを取ってグーチョキパーを出したり…。
ねらい



@始まりの合図

A発声を促す
B 楽器 カスタネット「♪くりくりくり」・オートハープ「♪焼いもじゃんけん」

歌いながらカスタネットを叩きます。早く、ゆっくりとテンポを変えて叩いてみました。「みんなが好きなオートハープをやりましょう」今度はひろし君から、弦をかき鳴らします。「すごいね。じゃあ、スティックをまさお君に渡せるかな。」まさお君も鳴らすことができました。「しんちゃんは、こっちの手もやってみよう。お口も歌える?」
1人ずつ違う課題が与えられています。
B順番を待つ
 楽器を通して表現する
C 色輪・お手玉 「♪回せ回せ」「♪あんたがたどこさ」

色輪とは、輪になった紐に赤・緑・黄色などの色布が1mほどの間隔で巻いてあるものです。これを全員でぐるぐると回します。
「♪回せ回せよ、どんどん回せ。だれのところに止まるかな。」
自分が何色を握っているかをよく見ます。
「当たりは赤です。」アシストの先生が色カードを出しました。
しんちゃんは「よっしゃぁ!やった。」と大喜びです。
「お手玉をやりましょう。♪あんたがどこさの『さ』のところで上に投げてね。」
Cみんなで活動することの楽しさを味わう
D 楽器 太鼓とシンバル「♪あんたがたどこさ」「♪驚愕」

次は大太鼓。頑張って叩いたまさお君は、嬉しそうに戻ってきてお母さんに抱きつきます。
「次はこうやってね」♪驚愕のメロディーが小さな音で流れる間、遠くからしのび足で近づきます。
大きな音のところで太鼓を一つ思い切り叩きます。
「太鼓かシンバルかどっちにする?」目指すところを決めて、みんなそっと近づいて叩きました。
「今度は、先生と一緒に叩こう。」叩く直前で先生とひろし君の目が合い、ぴたりと合わせて叩きました。
Dセラピストと合わせて打つ
E 動き 布「♪ひみつの宝物」

赤い薄い布が配られ、手の中で握ります。
「♪ヒミツのヒミツの宝物。そっと、はいどうぞ。」広げた布を大きく回します。
「♪ぶるーん、ぶるーん」「いちにのさん」で上に投げます。
布がふわりと落ちてきました。
E発散
F 絵本 もけらもけら(山下洋輔 著、元永定正 絵)

「♪お話が始まるよ。静かに聞けるかな。」 音楽が鳴り出すとみんな静かになりました。
本をめくりながら「もけらもけら。でけっ、でけっ。ぱたら、ぱたら。もこっ、もこっ。…」
「♪お話はこれでおしまい。」
最後まで絵本を見て、先生の声を聞いていました。
Fクールダウン
G 終わりの歌 フィンガーシンバル「♪きょうは終わり」

静かなまま、フィンガーシンバルが一つずつ配られました。
先生は自分のフィンガーシンバルと合わせて打ち鳴らしながら静かに歌います。
「♪バイバイ。今日は終わり。また会いましょう。」
気をつけをして「終わります」の挨拶をして終わりました。
G締めくくり
セラピストは渡辺葉美さん、アシスタントは宮之原光枝さんのセッションを見せていただきました。
セッション中、驚くほど集中して活動に参加する子ども達も、音楽療法に参加し始めた頃は、走り回ったり1人の世界にいたりしたそうです。
「やりたくなる音楽」、「静かになれる音楽」、「ルールを理解する音楽」のように、音楽が効果的に使われ、少しずつ周りと協調できるようになってきたようです。
取材にご協力いただきましたピンポンパンの子ども達とお母様方、渡辺さん、宮之原さん、ありがとうございました。
(2008年1月9日取材)
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